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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)729号 判決

控訴人 野口音一

控訴人 高城武雄

右両名訴訟代理人弁護士 八木下巽

被控訴人 須之内禧武

右訴訟代理人弁護士 安藤章

同 内丸義昭

被控訴人 伊藤和男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  控訴人らは各自、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)について、水戸地方法務局波崎出張所昭和四八年一一月一七日受付第七、三一八号抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)にある原因同年同月一六日金銭消費貸借の同日設定契約、債権額二、五〇〇万円、利息年一割五分損害金年三割、債務者被控訴人須之内禧武(以下「被控訴人須之内」という。)、抵当権者被控訴人伊藤和男(以下「被控訴人伊藤」という。)の抵当権(以下「本件抵当権」という。)及び同出張所同年同月一七日受付第七、三一九号条件付所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)にある原因同年同月一六日代物弁済契約(条件同日抵当の債務不履行)、権利者被控訴人伊藤の条件付所有権移転請求権(以下「本件条件付所有権移転請求権」という。)につき持分二分の一を有することを確認する。

3  被控訴人伊藤は控訴人らに対し、それぞれ本件土地についての本件仮登記につき持分各二分の一の移転の付記登記手続をせよ。

4  被控訴人須之内の控訴人らに対する各請求はいずれも棄却する。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人須之内

控訴棄却。

第二当事者の主張

(被控訴人須之内の請求)

一  請求原因

1 被控訴人須之内は本件土地を所有している。

2 本件土地につき、被控訴人伊藤のため、本件抵当権設定登記及び本件仮登記がある。

3 本件土地につき、控訴人らのため、本件抵当権につき水戸地方法務局波崎出張所昭和四九年一一月二二日受付第五四二六号持分各二分の一の抵当権一部移転登記(以下「本件抵当権一部移転登記」という。)がある。

4 よって、被控訴人須之内は、本件土地所有権に基づき、被控訴人伊藤に対し本件抵当権設定登記及び本件仮登記の、控訴人ら各自に対し本件抵当権一部移転登記の、各抹消登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1 被控訴人伊藤

請求原因1及び2の事実は認める。

2 控訴人ら

同1ないし3の事実は認める。

三  抗弁

1 控訴人ら及び被控訴人伊藤

被控訴人伊藤は、昭和四八年一一月一六日、被控訴人須之内の代理人である訴外鈴木レイとの間で、同訴外人及び訴外太田勘左衛門の連帯保証の下に、弁済期昭和四九年一月一五日利息年一割五分期限後の損害金日歩八銭二厘と定めて二、〇〇〇万円を貸与することとし(以下「本件金銭消費貸借」という。)、その担保のため本件土地に抵当権(本件抵当権)を設定し、かつ債務の弁済を遅滞したときは代物弁済として本件土地の所有権を取得することができる(本件条件付所有権移転請求権)旨の契約を締結し、同日被控訴人須之内の代理人である鈴木レイに金員を交付し、翌昭和四八年一一月一七日、右契約に従い本件抵当権設定登記及び本件仮登記を受けた。

2 控訴人ら

(一) 仮に被控訴人須之内が鈴木レイに対し右のような契約を締結する代理権を授与していないとしても、次のとおり表見代理が成立するから同被控訴人はその責に任じなければならない。

(1) 被控訴人須之内は、太田暢及び鈴木レイに対し本件土地の登記済権利証、印鑑証明書及び実印を交付して、その使用を許し、もって、他から金員を借用し、本件土地を担保に供するにつき同人らに代理権を与えた旨を、訴外酒井昭一らを介して被控訴人伊藤に表示した(民法一〇九条)。

(2) 被控訴人須之内は太田暢及び鈴木レイに対し少なくとも金員借受の代理権を与えたものであり、本件抵当権設定契約、代物弁済予約をすることが右代理権を超えるものであれば、鈴木レイは、本件土地の登記済権利証並びに被控訴人須之内の印鑑証明書及び白紙委任状を所持していたから、被控訴人伊藤が鈴木レイに前記1の契約を締結する代理権があると信じたことには正当な理由がある(民法一一〇条)。

(二) 水戸地方裁判所麻生支部は、水戸地方法務局所属公証人後藤暎作成昭和四九年第八五九号金銭消費貸借契約公正証書(債権者控訴人ら、債務者被控訴人伊藤)の執行力ある正本に基づき、同年一一月八日、被控訴人伊藤の被控訴人須之内に対する本件金銭消費貸借債権及びこれに対する同年一月一六日から同年一〇月二一日までの日歩金八銭二厘の割合による損害金債権を差押え、その各二分の一を控訴人ら各自に転付する旨の命令を発し、同命令は同月一一日被控訴人らに送達された。

(三) 従って、控訴人らはそれぞれ、右債権の二分の一を取得すると同時に、その担保権である本件抵当権及び本件条件付所有権移転請求権の持分各二分の一を取得し、本件抵当権の一部移転登記を受けた。

四  抗弁に対する認否

抗弁のうち、控訴人らがその主張の転付命令を得た事実は認めるが、その余は否認する。

被控訴人須之内は鈴木レイに対し何らの代理権も与えておらず、鈴木レイは被控訴人須之内名義の委任状を偽造した自称代理人にすぎない。

(控訴人らの請求)

一  請求原因

1 被控訴人須之内は本件土地を所有している。

2 (被控訴人須之内の請求)における「抗弁」の記載と同旨。

3 よって、控訴人らは各自、被控訴人須之内に対し本件抵当権及び本件条件付所有権移転請求権の持分二分の一を有することの確認、被控訴人伊藤に対し本件条件付所有権移転請求権の持分二分の一の取得に因る本件仮登記についての各持分二分の一の移転の付記登記手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1 被控訴人須之内

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の事実については、(被控訴人須之内の請求)における「抗弁に対する認否」の記載と同旨。

2 被控訴人伊藤

請求原因事実はすべて認める。

第三証拠《省略》

理由

一  被控訴人須之内が本件土地を所有していること、本件土地につき本件抵当権設定登記、本件仮登記及び本件抵当権一部移転登記の存在すること、水戸地方裁判所麻生支部が、水戸地方法務局所属公証人後藤暎作成昭和四九年第八五九号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づき、同年一一月八日、本件金銭消費貸借債権及びこれに対する同年一月一六日から同年一〇月二一日までの日歩金八銭二厘の割合による損害金債権を差押え、その各二分の一を控訴人ら各自に転付する旨の命令を発し、同命令は同月一一日被控訴人らに送達されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、先ず本件金銭消費貸借契約の存否について検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

1  訴外鈴木レイは、千葉県銚子市内で「バー黒猫」の名称で飲食業を営んでいるものであるが、かねてから実父の訴外太田勘左衛門の多額の借財につき、同人に代りその返済処理に当ってきたところ、債権者の督促を受け、実弟の訴外太田暢の妻倫子の弟で農業を営んでいる被控訴人須之内に同人が前年相続により所有するに至った本件土地を担保に供してもらい、他から融資を受けて、借財の返済に充て、急場を凌ぐことを考え、昭和四八年一〇月一日頃、茨城県鹿島郡波崎町須田において太田勘左衛門と同居している同人の長男の太田暢に対し、被控訴人須之内に右の旨依頼して、同人から本件土地の登記済権利証並びに同被控訴人の印鑑証明書を受取ってくることを頼んだ。

2  太田暢は、これをうけて同月一日被控訴人須之内方を訪れ、同被控訴人に対し太田勘左衛門又は鈴木レイが他から借金をするにつき必要であるからとして、右書類の交付方を依頼し、同被控訴人は、自ら町役場から印鑑証明書二通の交付を受け、本件土地の登記済権利証とともに、これらを太田暢に渡した。その二、三日後、鈴木レイの指示により暢は再び被控訴人須之内方を訪れ、同人の妻政子から、同被控訴人の実印を借受けた。当時被控訴人自身としては、他から借財をする必要はなく、また、本件土地以外には格別の資産を有しなかった。

3  鈴木レイは、その頃、太田暢から右印鑑証明書、登記済権利証及び実印の交付を受け、右実印を使用して被控訴人須之内名義の委任状を作成したうえ、訴外長谷川清子の仲介で、右委任状、印鑑証明書、登記済権利証を差入れて千葉県八日市場市居住の某から高利で一、〇〇〇万円を借受けたが、その数日後右借受金のため本件土地につき抵当権設定登記が経由されるおそれが生じたため、「バー黒猫」の店長で債権者の一人でもあった訴外酒井昭一に対し、右借受金返済のための融資を求め、右訴外人が他から借入れてきた一、〇六〇万円をもって、右八日市場市の某に対する借金を返済し、前記各書類の返還を受けた。しかし、再び右訴外酒井の借入れ先から返済の催告を受けたので、訴外酒井に対し右書類を渡して新たな融資の斡旋方を求め、その後同人の斡旋で金融業者である被控訴人伊藤から融資を受けられることになった。

4  同年一一月一六日、鈴木レイ、酒井昭一及び被控訴人伊藤らは、千葉県銚子市東町二八五番地の千葉地方法務局所属公証人元吉保之輔の公証人役場に会合し、鈴木レイは被控訴人須之内及び太田勘左衛門の代理人ともなって(真実代理権が授与されていたか否かの点は除く。)被控訴人伊藤との間に、被控訴人伊藤は鈴木レイ及び太田勘左衛門の連帯保証を受けて被控訴人須之内に対し、弁済期昭和四九年一月一五日、利息年一割五分(実際には月八分)、期限後の損害金日歩二銭八厘と定めて二、〇〇〇万円を貸与するものとし、その担保のため本件土地に抵当権を設定し、かつ債務の弁済を遅滞したときは代物弁済として被控訴人伊藤は本件土地の所有権を取得することができる旨の抵当権設定金銭消費貸借契約公正証書を作成し、同日被控訴人伊藤は鈴木レイに対し、右消費貸借契約に基づく貸金の一部として、月八分の割合による利息を天引した一、一〇〇万円余を交付した。

5  被控訴人伊藤は、翌一一月一七日、被控訴人須之内名義の前記委任状、印鑑証明書、登記済権利証を使用して、本件土地につき本件抵当権設定登記及び本件仮登記の申請手続をし、その際抵当権設定登記について、損害金の増加を考慮して独断で債権額を二、五〇〇万円、損害金を年三割に改め、右各登記を受けた。

以上の事実が認められるところ、被控訴人須之内は、同人が本件土地の登記済権利証と同人の印鑑証明書を太田暢に預けたのは、右太田らが融資を受ける相手に見せるだけで、他の目的には使用しない約束のもとになされたのであり、同被控訴人の印鑑は、その後同被控訴人の意思に基づかずに太田らの手に渡ったものである旨主張する。《証拠省略》中には、被控訴人須之内の右主張に添う部分があり、鈴木レイが金員の借入先の八日市場市の某らにより本件土地につき担保権を設定されることを恐れて、さらに他から借入れをしては返済したこと及び同被控訴人は右登記済権利証等を太田暢に交付した際に委任状は交付せず、その印鑑も後日同人の妻により右太田に交付されたものであることは前認定のとおりであり、右の事実からすれば太田暢が同被控訴人から本件土地の登記済権利証等の交付を受けるに当り、右主張のようなことを申し向けた疑いがないではない。しかしながら、第三者の不動産の登記済権利証等を単に示されるだけで高額の金員を貸与する金融業者がいるとは通常考えられないところであり、右のように第三者の登記済権利証等を借金の申込の際提示することは、特別の事情がない限り物上保証人が存在することを意味するものというべきであり、被控訴人須之内が格別このような点について無知であったと認めるべき証拠はなく、さらに、同人が右登記済権利証とともにその印鑑証明書二通をも交付していることからみても、また、後記認定の前記公正証書に基づき被控訴人須之内に対し強制執行がなされた際の同人の対処の状況等からみても、被控訴人須之内の前記主張は不自然、不合理であって、採用しがたい。しかしながら、同被控訴人が、自己の必要に基づくことなく、その姉の夫の父にすぎない太田勘左衛門の債務を弁済するために、返済の見込もなく自ら借主となり、父祖伝来の全不動産である本件土地を担保に供して多額の金員を借受ける意思を有していたものと認めるに足る証拠はなく、そのように解するのを相当とすべき特別の事情も認められない。結局前記認定のとおり、同被控訴人は、太田勘左衛門又は鈴木レイにおいて右勘左衛門の債務を弁済するために他から金員を借受けるにつき担保物件として本件土地を提供することを承諾して、太田暢に対し右登記済権利証及び印鑑証明書次いで実印を交付したものと推認するのが相当である。

なお、《証拠省略》によれば、被控訴人須之内が被控訴人伊藤に対し本件抵当権設定登記等の抹消登記手続を求める本件訴を提起した後、控訴人らはその主張にかかる債権転付命令を得たうえ、昭和五〇年一二月二〇日前記公正証書の執行力ある正本に基づき被控訴人須之内の有体動産を差押えるため、水戸地方裁判所執行官職務代行者とともに同被控訴人方に赴いたところ、同被控訴人は一部弁済金として一〇万円を提供し、当日の差押は中止されたこと、さらに昭和五一年二月一五日頃同被控訴人は控訴人らに対しその所有の不動産の一部をもって代物弁済をするから減額してほしい旨要望し、右有体動産に対する強制執行の取下を求め、併せて本件訴訟を取下げる旨の誓約書と題する書面を差入れ、控訴人らを本件土地に案内したこと、さらに、同年三月一九日再び差押のため赴いた控訴人らに対し同被控訴人は土地をもって代物弁済する旨を申入れ、これを肯じない控訴人らに対し一部弁済金として五万円を提供し、当日の執行は控訴人らの申立で延期されたこと、これらの執行調書及び誓約書には、被控訴人須之内は債務を「認諾し」た旨が記載されていることが認められるが、前記認定の諸事実にかんがみれば、右は、既に被控訴人須之内が本件訴を提起した後のことであり、同人は訴訟上本件公正証書に基づく債務の存在を争う意思を明かにしていたものであり、法律知識に疎い同被控訴人が、当面の差押を免れるため、あるいは控訴人らとの示談解決を図るためになした言動であると解せられ、前記の事実をもって同被控訴人が被控訴人伊藤との間の金銭消費貸借契約の締結を承認していたことの証左とはなし難く、前記認定を左右するに足りるものではない。また、《証拠省略》によれば、太田暢がその負担において控訴人らに対し太田勘左衛門及び被控訴人須之内の代理と称して前記消費貸借債務の弁済として少額の金員を二〇数回にわたり支払を続け、また、同被控訴人が太田暢の債務のため、昭和四九年二月一日と本件土地の大部分に抵当権設定の仮登記をし、同年五月四日には極度額七〇〇万円の根抵当権設定登記をした事実が認められるが(尤も右両登記は昭和五〇年七月四日に抹消された。)、右の事実も同被控訴人は物上保証を承諾したにすぎない旨の前記認定を左右するに足りるものとは認められず、以上の認定に反する《証拠省略》は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがって、被控訴人須之内が右公正証書に記載されたような金銭消費貸借契約を締結することを承諾し、その契約締結の代理権を太田暢あるいは鈴木レイに与えた旨の控訴人ら及び被控訴人伊藤の主張事実は認められない。

三  次に、控訴人らは、代理権授与の表示及び権限踰越による表見代理を主張するので、これにつき検討する。

1  先ず代理権授与の表示による表見代理の主張については、被控訴人須之内が太田暢に対し太田勘左衛門又は鈴木レイの借受金債務につき物上保証の趣旨で本件土地の登記済権利証、印鑑証明書及び実印を交付してその使用を許し、次いで鈴木レイが酒井昭一を介して、右登記済権利証、印鑑証明書及び右実印を使用して作成した被控訴人須之内名義の委任状を被控訴人伊藤に示して金員借受の申入れをしたことは前記のとおりであるが、これをもって、被控訴人須之内が控訴人ら主張のように自己を借主として金銭消費貸借契約を締結するにつき代理権を鈴木レイその他の者に授与する旨を被控訴人伊藤に対し表示したものと認めることはできず、他に右代理権授与の表示をしたものと解するのを相当とする事情を認めるに足りる証拠もないから、右表見代理の主張は失当である。

2  また、権限踰越による表見代理の主張については、前記認定によれば、同被控訴人は物上保証を承諾して太田暢に対し登記済権利証、印鑑証明書及び実印を交付しているのであるから、同被控訴人は太田暢ないし鈴木レイに対し右の物上保証をする代理権を与えたものと認められるので、この代理権限の踰越による表見代理の成否につき考えるに、原審における被控訴人伊藤の前掲本人尋問の結果によれば、当時金融業を営んでいた被控訴人伊藤は、本件消費貸借契約を締結する四、五日前に訴外酒井から鈴木レイを紹介され、右鈴木とは初対面であり、被控訴人須之内とも取引をしたことはなかったが、右鈴木が本件土地の登記済権利証、同被控訴人の委任状等を所持しているところから、同人が同被控訴人を代理して金員を借用する権限があると思い、格別穿さくすることもなく、右借用金の使途を尋ねることもしなかったこと、被控訴人須之内の住居は被控訴人伊藤の住居から自動車で約二〇分程度の距離にあり、被控訴人伊藤は本件土地が被控訴人須之内のほぼ全財産に当るものであることを知っていたが、直接同人に連絡し、その意思を確認することはせず、鈴木レイの言に基づき、同人を被控訴人須之内の代理人として、本件金銭消費貸借契約を締結し、一、〇〇〇万円を超える金額を被控訴人須之内に対する貸金として鈴木レイに交付したことが認められるのであって、農業を営む被控訴人須之内がその全財産というべき本件土地を担保に供して多額の金員の借入れをするというのに、近くに居住する右本人が自ら来ることなく、代理人により借金の申込をするのは奇異ともいえることであるから、金融業者たる被控訴人伊藤においては、鈴木レイから申込を受けた日から契約締結の日までの間に被控訴人須之内にその意思を確め、右借入金の使途なども尋ねるのが相当であり、右の措置をとることは極めて容易であったにもかかわらず、これをなさず、右鈴木レイの言と右書類のみに基づいて、同人に右金銭消費貸借契約を締結するにつき被控訴人須之内を代理する権限ありと信じたとすれば、軽率のそしりを免れず、いまだ民法一一〇条にいう代理権があると信ずべき正当の理由がある場合にあたるとはいえない。したがって、権限踰越による表見代理も成立しないというべきである。

四  以上のとおりであって、本件金銭消費貸借契約は成立していないから、その債務を担保する本件抵当権及び本件条件付所有権移転請求権も存在せず、したがって本件抵当権設定登記及び仮登記並びに控訴人らのためになされた右抵当権の一部移転登記は無効の登記というべきである。

五  よって、被控訴人須之内の請求はいずれも理由があり、控訴人らの請求はいずれも理由がなく(被控訴人伊藤の原審における控訴人らの請求を認諾する旨の陳述は、本訴訟は、合一に確定すべき場合であるから、その効力を生じない。)、これと同旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 外山四郎 裁判官 清水次郎 鬼頭季郎)

〈以下省略〉

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